知っておきたい歯の「酸蝕症」
知っておきたい歯の「酸蝕症」

はじめに
虫歯や歯周病については多くの方がご存知だと思いますが、「酸蝕症」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。酸蝕症は、酸によって歯が溶けてしまう病気で、近年増加傾向にあると言われています。虫歯とは異なるメカニズムで歯が失われていくこの病気は、日常的な食生活や習慣が大きく関わっています。知らず知らずのうちに歯を傷めている可能性もあるため、正しい知識を身につけることが重要です。この記事では、酸蝕症の原因から症状、予防法まで詳しく解説していきます。
酸蝕症とは
酸蝕症は、酸性の飲食物や胃酸によって歯のエナメル質が溶かされる病気です。正式には「歯の酸蝕」や「酸蝕歯」と呼ばれます。虫歯は細菌が作り出す酸によって歯が溶けるのに対し、酸蝕症は食べ物や飲み物に含まれる酸が直接歯を溶かしてしまう点が大きな違いです。
歯の表面を覆うエナメル質は、人体で最も硬い組織ですが、酸には弱いという弱点があります。通常、口の中は唾液の働きによって中性に保たれていますが、酸性の飲食物を摂取すると一時的に口の中が酸性に傾きます。この状態が頻繁に、または長時間続くと、エナメル質が徐々に溶かされていくのです。
世界的に見ると、成人の約30パーセントが何らかの形で酸蝕症の症状を持っているとされています。日本でも、食生活の欧米化や健康志向の高まりによる酸性飲料の摂取増加などにより、酸蝕症の患者が増えていると考えられています。
酸蝕症の原因
酸蝕症の原因は、大きく分けて外因性と内因性の二つに分類されます。
外因性の原因
外因性の原因とは、口の外から入ってくる酸によるものです。最も一般的なのが、酸性の飲食物です。柑橘類のジュース、炭酸飲料、スポーツドリンク、エナジードリンク、ワイン、酢を使った料理、フルーツなど、私たちが日常的に口にするものの中には、酸性度の高いものが多く含まれています。
特に注意が必要なのは、健康に良いとされる飲み物です。ビタミンC入りの清涼飲料水、黒酢ドリンク、レモン水などは、健康のために毎日飲んでいる方も多いでしょう。しかし、これらは酸性度が高く、頻繁に摂取すると酸蝕症のリスクが高まります。
また、職業的な要因も無視できません。ワインのソムリエやテイスター、調理師、化学工場の作業員など、酸性の物質に触れる機会が多い職業の方は、酸蝕症になりやすい傾向があります。水泳選手も、プールの塩素処理によって酸性に傾いた水に長時間触れることで、酸蝕症のリスクが高まります。
内因性の原因
内因性の原因とは、体の中から来る酸によるものです。最も多いのが胃酸です。逆流性食道炎や胃食道逆流症などで胃酸が口の中まで上がってくると、強力な酸が歯を溶かしてしまいます。また、摂食障害で嘔吐を繰り返す場合も、胃酸によって歯が溶けるリスクが非常に高くなります。
妊娠中のつわりで嘔吐が続く場合も注意が必要です。また、アルコール依存症の方も嘔吐の頻度が高く、酸蝕症のリスクが高まります。
酸蝕症の症状
酸蝕症は初期段階では自覚症状がほとんどなく、気づきにくいのが特徴です。しかし、進行すると以下のような症状が現れます。
歯がしみる
冷たいものや熱いもの、甘いものがしみるようになります。これは、エナメル質が溶けて薄くなり、内側の象牙質が露出することで起こります。知覚過敏の症状と似ていますが、原因が異なります。
歯が透けて見える
特に前歯の先端部分が透けて見えるようになります。エナメル質が薄くなると、光が透過しやすくなるためです。健康な歯は白く不透明ですが、酸蝕症が進行すると半透明になっていきます。
歯の表面が滑らかになりすぎる
通常、歯の表面には細かい凹凸がありますが、酸蝕症が進むと不自然なほど滑らかになります。また、歯の表面に艶がなくなり、くすんで見えることもあります。
歯が短く見える
酸によって歯が溶けることで、特に前歯の長さが短くなったように見えます。また、奥歯の噛む面が平らになったり、凹んだりすることもあります。
詰め物が浮いて見える
以前治療した詰め物の周りの歯質が溶けることで、詰め物が盛り上がって見えることがあります。これは、詰め物自体は酸に強いため、周囲の歯だけが溶けてしまうためです。
酸蝕症と虫歯の違い
酸蝕症と虫歯は、どちらも歯が溶ける病気ですが、そのメカニズムは大きく異なります。虫歯は、口の中の細菌が糖分を分解して酸を作り出し、その酸によって歯が溶ける病気です。そのため、虫歯は細菌が存在する特定の場所にできます。
一方、酸蝕症は細菌とは関係なく、飲食物や胃酸の酸が直接歯を溶かします。そのため、歯全体が広範囲に溶けるのが特徴です。また、虫歯は歯の溝や歯と歯の間など、磨きにくい場所にできやすいですが、酸蝕症は歯の表面全体に影響を及ぼします。
酸蝕症の予防法
酸蝕症を予防するためには、日常生活での注意が重要です。
酸性飲食物の摂取方法を工夫する
酸性の飲み物を飲む際は、ストローを使って歯に直接触れないようにしましょう。また、だらだらと時間をかけて飲むのではなく、短時間で飲み終えることが大切です。飲んだ後は、水で口をすすぐことで口の中の酸性度を下げることができます。
柑橘類などを食べた直後に歯磨きをするのは避けましょう。酸によって柔らかくなった歯を磨くと、さらにエナメル質を傷つけてしまう可能性があります。食後30分程度経ってから歯磨きをすることをおすすめします。
唾液の分泌を促す
唾液には口の中を中性に戻す働きがあります。キシリトールガムを噛むことで唾液の分泌が促進され、酸を中和する効果が期待できます。また、十分な水分補給も唾液の分泌を助けます。
フッ素を活用する
フッ素入りの歯磨き粉を使用することで、歯の再石灰化を促し、酸への抵抗力を高めることができます。歯科医院でのフッ素塗布も効果的です。
定期的な歯科検診
酸蝕症は初期段階で発見できれば、進行を防ぐことができます。定期的に歯科検診を受け、早期発見・早期対処を心がけましょう。
胃酸の逆流対策
逆流性食道炎などがある場合は、医師の診断を受けて適切な治療を受けることが重要です。就寝前の食事を避ける、上半身を高くして寝るなどの生活習慣の改善も効果的です。
酸蝕症の治療
すでに酸蝕症が進行している場合は、歯科医院での治療が必要です。軽度の場合は、フッ素塗布やコーティング剤の使用で進行を抑えます。中程度から重度の場合は、コンポジットレジンによる修復、セラミックの被せ物、場合によっては神経の治療が必要になることもあります。
まとめ
酸蝕症は、日常的な食生活や習慣によって引き起こされる歯の病気です。健康に良いとされる飲食物でも、摂取方法を誤ると歯にダメージを与えてしまいます。
予防の鍵は、酸性飲食物との付き合い方を見直すことです。ストローの使用、飲食後の水でのすすぎ、適切なタイミングでの歯磨きなど、ちょっとした工夫で酸蝕症のリスクを大幅に減らすことができます。
自覚症状が出にくい病気だからこそ、定期的な歯科検診が重要です。早期発見・早期対処で、健康な歯を守っていきましょう。
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